寝返りを分析する

モーションキャプチャシステムは、人間の動きを毎秒120コマ、数皿の精細度でとらえることが可能な装置です。

スタジオには18台の高精細赤外線カメラが備えつけられており、高性能のコンピュータで制御されています。専任の研究スタッフが、スタジオの複雑なコンピュータの操作、データ解析、CGによる可視化と表示等を全面的にサポートしています。

専用の全身を被うスーツを着用した被験者は、頭、肩、胸、肘、手、腰、膝、脚などの各部に、数十個の光を反射する光学マーカーを取りつけます。マットレスと枕を用意し、被験者に寝てもらいます。

枕診断士が計測した至適枕高、低い枕、高い枕に変えながら、寝返り体型と動きのパターンを守って、被験者に実際の寝返りをしてもらいます。

赤外線の照射機能が組み込まれた18台の高精細赤外線カメラは、斜め上部から被験者を360度で取り囲むよう設置され、毎秒120コマで被験者に取りつけたマーカーの赤外線の反射光を受光し、その軌跡の座標をコンピュータに記録していきます。

取得したデータは、毎秒100万点近い立体座標データに置き換え、各マーカーの軌跡を4次元(3次元空間十時間軸)の座標として記録し続けます。これにより、各光学マーカーの動きが、3次元座標データとして正確に把握できることになります。

そして、各マーカーの位假座標の変化に加えて、速度、加速度、角速度などを計算して求めることができます。さらに、結果をグラフ化したり、可視化して大画面に表示したりすることで、各部位の動きがスムーズに推移しているか、あるいは、ぎこちないかなどの判定が容易になります。

この時、枕診断士が映像データを見ながらスムーズ、ぎこちないなどのコメントを書き込んでいくと、その位置、速度、加速度などの状態を定量的に把握できるわけです。

たとえば、膝と腰の回転角度を見れば、膝と腰の位相の遅れがわかります。また、腰の動きの速度、加速度の波形の高周波成分が多ければ、寝返りがぎこちなく、枕高が合っていないことがわかります。

このデータを知識ベースとしてコンピュータに蓄積することにより、枕診断士の診断判定を定量化していくことにつながります。のちのち、蓄積された大量の定量化されたデータをコンピュータで解析することにより、逆に、寝返りの良し悪しのデータから枕の良し悪しがわかるという、将来に向けた夢が描けます。

さらに、新しい計測事例が増えるたびに賢くなり精度が上がる、機械学習という仕組みを付与していくことにより、どんどん完成度がアップすることが期待できます。実際どのように計測するのか、1つの例を説明します。

コンピュータにデータを取り込んでCGで再現すると、被験者と同じ動きをする人体モデルが出来上がります。光学マーカーの軌跡から、頭部の中心を淡色の丸、胸部の中心を濃色の丸、腰部の中心を白色の丸とし、計算で求めて表しています。

これら3点を結んだ軸を仮想体軸と名づけ、寝返り時にその直線性を見ることにより、スムーズ、あるいはぎこちないといった、寝返りの良し悪しの判定尺度の一つに用います。

さらに、光学マーカーの位置と人体の対応がはっきりわかり、時間推移を入れて軌跡を観察すると、あたかも被験者が寝返りをしているように見えます。

被験者のこのようなCG画像と、実際の映像を比較して見ることにより、ぎこちない動きなどの振る舞いがよくわかります。

 

至適睡眠姿勢とコンピュータを駆使した新たな計測手法

人間工学が学問体系として確立して、その手法が寝具設計に応用されるのは、1980年代です。

当時の文献からはよい睡眠姿勢をどうとらえるか、また、それを支える寝具をどう実現するかが大変難しかったことがうかがえます。そして、そこでは「最適な睡眠姿勢とそれを支える寝具はこれだ!」という決定打は見当たりません。

翻って、現在のコンピュータサイエンスの飛躍的な進歩によって、睡眠姿勢をより正確に、長期にわたってとらえることが可能になりました。

今回私たちは、コンピュータサイエンスの応用による新しい計測手法と、整形外科の臨床研究の成果による計測手法を結びつけた新たな至適睡眠姿勢の計測手法を考案しました。

これらから得た結果と、人間工学的な計測による結果を統合してできたものが、至適睡眠姿勢を支える寝具です。

至適睡眠姿勢とは、限りなくよい睡眠姿勢に近づいていることを言い表し、ムービングターゲット(動いている目標)として、最適に向けて研究し続けていくという意思表示です。至適は、医学ではよく使われている言葉です。

仰臥位、側臥位などの静的睡眠姿勢は、従来の人間工学的な計測手法、X線画像、MRIや体圧センサーなどで正確にとらえることができるようになりました。

また、コンピュータを用いた数値解析技術の発展により、昔は考えられなかったほどの大量の姿勢データを統計的に処理し、画面上に可視化して人間の目にわかりやすく表現することが可能となりました。

寝返りに代表される動的睡眠姿勢は、モーションキャプチャシステムにより解析できます。このシステムは大掛かりな装置です。十数台の高精細赤外線カメラから赤外線を照射したスタジオ内で、人体に数十の赤外線光学マーカーを取りつけることによって、各部位の動きを位置データとしてリアルタイムに取得できます。

このデータを解析し、可視化することにより、各部位の動きの時間変化が刻々とわかり、各部位ごとの加速度、角速度なども時間軸でとらえることが可能になります。

無理な力がかかっていないか、スムーズな寝返りをしているかなどを数値データから解析するとともに、医師と枕診断士による診断結果の両面から至適姿勢を判断することができるのです。

また、近年、急速に機能が向上し、小型化された加速度センサーや角速度センサーが活躍の場を広げています。これらの超小型モーションセンサーを体の各部位に取りつけることで、モーションキャプチャシステムのような高価で大掛かりな装置を使わなくても、計測や診断が可能になり、実用性が高まってきました。

このように、モーションセンサー技術の発達で、睡眠時における人体の形状や動きに関する大量のデータを時系列に収集することができます。集められたデータからコンピュータで有益な情報を選別し、高速で画像解析を行い、正確な解析が可能です。

私たちは10年前では不可能だったコンピュータの処理技術、可視化技術、超小型センサーの最新技術を駆使し、40年間培ってきた診断技術を融合させました。

今までになかった新しいアプローチで、至適睡眠姿勢をとらえるプロジェクトを推進したのです。

このブログでは専門家の診断方法と蓄積されてきたデータの知識を、コンピュータサイエンティスト・エンジニアが、モーションキャプチャシステムを用いて、コンピュータによる解析を通して、解明していくプロセスを紹介します。

医師と患者の会話から生まれた偶然的発見(セレンンディピティ)と、その後の医学者と工学者が研究によるコラボレーションを続けて得られた、貴重な最初の成果でもあります。