枕・睡眠・肩こり

至適睡眠姿勢とコンピュータを駆使した新たな計測手法

人間工学が学問体系として確立して、その手法が寝具設計に応用されるのは、1980年代です。

当時の文献からはよい睡眠姿勢をどうとらえるか、また、それを支える寝具をどう実現するかが大変難しかったことがうかがえます。そして、そこでは「最適な睡眠姿勢とそれを支える寝具はこれだ!」という決定打は見当たりません。

翻って、現在のコンピュータサイエンスの飛躍的な進歩によって、睡眠姿勢をより正確に、長期にわたってとらえることが可能になりました。

今回私たちは、コンピュータサイエンスの応用による新しい計測手法と、整形外科の臨床研究の成果による計測手法を結びつけた新たな至適睡眠姿勢の計測手法を考案しました。

これらから得た結果と、人間工学的な計測による結果を統合してできたものが、至適睡眠姿勢を支える寝具です。

至適睡眠姿勢とは、限りなくよい睡眠姿勢に近づいていることを言い表し、ムービングターゲット(動いている目標)として、最適に向けて研究し続けていくという意思表示です。至適は、医学ではよく使われている言葉です。

仰臥位、側臥位などの静的睡眠姿勢は、従来の人間工学的な計測手法、X線画像、MRIや体圧センサーなどで正確にとらえることができるようになりました。

また、コンピュータを用いた数値解析技術の発展により、昔は考えられなかったほどの大量の姿勢データを統計的に処理し、画面上に可視化して人間の目にわかりやすく表現することが可能となりました。

寝返りに代表される動的睡眠姿勢は、モーションキャプチャシステムにより解析できます。このシステムは大掛かりな装置です。十数台の高精細赤外線カメラから赤外線を照射したスタジオ内で、人体に数十の赤外線光学マーカーを取りつけることによって、各部位の動きを位置データとしてリアルタイムに取得できます。

このデータを解析し、可視化することにより、各部位の動きの時間変化が刻々とわかり、各部位ごとの加速度、角速度なども時間軸でとらえることが可能になります。

無理な力がかかっていないか、スムーズな寝返りをしているかなどを数値データから解析するとともに、医師と枕診断士による診断結果の両面から至適姿勢を判断することができるのです。

また、近年、急速に機能が向上し、小型化された加速度センサーや角速度センサーが活躍の場を広げています。これらの超小型モーションセンサーを体の各部位に取りつけることで、モーションキャプチャシステムのような高価で大掛かりな装置を使わなくても、計測や診断が可能になり、実用性が高まってきました。

このように、モーションセンサー技術の発達で、睡眠時における人体の形状や動きに関する大量のデータを時系列に収集することができます。集められたデータからコンピュータで有益な情報を選別し、高速で画像解析を行い、正確な解析が可能です。

私たちは10年前では不可能だったコンピュータの処理技術、可視化技術、超小型センサーの最新技術を駆使し、40年間培ってきた診断技術を融合させました。

今までになかった新しいアプローチで、至適睡眠姿勢をとらえるプロジェクトを推進したのです。

このブログでは専門家の診断方法と蓄積されてきたデータの知識を、コンピュータサイエンティスト・エンジニアが、モーションキャプチャシステムを用いて、コンピュータによる解析を通して、解明していくプロセスを紹介します。

医師と患者の会話から生まれた偶然的発見(セレンンディピティ)と、その後の医学者と工学者が研究によるコラボレーションを続けて得られた、貴重な最初の成果でもあります。